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君と1000年紡ぐ

甘くもなく、でも辛口でもない。 そんな物語を置いています。
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レンネンカンプ博士の誘拐

そこのあなた。
ええ、あなたです。
あなた、もしや、レンネンカンプ博士がどこへ行かれたか、ご存知なのではないですか。

ええ、あのレンネンカンプ博士です。
そうです、世界的に有名な土の博士です。

先月の学会で「生涯を土の研究のよろこびにささげる」と、堂々と宣言なさいまして。
それは衝撃的でした。
会場中がしん…と、こう、水を打ったようにとはこういうことなのですね、静まり返りまして。
研究対象にすべてを投げ打つことが、なにが悪いのか、とおっしゃいました?
いえいえ。
なにごとも、やりすぎることはよくありません。
ほどよく、テキトーといいますか、適当な姿勢が必要なのではないでしょうか。
研究者の立場というものは、とくにそうだと思います。

ああ、話がそれました。
わたしは博士がどうにも気がかりで、ここまでやって来たわけです。
なにせ学会で熱弁された博士の顔ときたら、ひどい土気色で。
われながら上手いことを申し上げました。
お笑いになれない。
これは失礼いたしました。
とにかく、彼のやせ衰えようときたら、いまにも風に吹かれて木っ端みじんに……これはまた失礼いたしました。
簡潔に繰り返しますと、心配なのです。

土にささげるとは。
どうしてそんな、一人身に負えないことを。

母なる大地を覆うもの。
あらゆるものを生み出し、混ぜ合わせ、ふたたび迎え入れるもの。
それを救いたいとおっしゃっておいででした。
博士は。
ここにいらっしゃると思ったのですが。

この星には、土しかないでしょう。
つまり、最初と最後だけがある。
この星には。
還元すべき、循環されるべきものが存在しないのです。
草花も育ちません。
おそらく博士はいろいろ与えてはみたのでしょうね。草木の苗やら、昆虫やら、水やら。
それでも、お一人でやられるのには限界があったのでしょう。
こんな端っこの小さな星では。
その証拠に、ここには相変わらず土しかない。

ではこれ以上、博士はなにをささげるとおっしゃったのか。
わたしはそれこそが。
彼が生涯、と言ったことの真意だと思ったのです。

もう、彼にはすでに、あなたがたに差し上げるものがなくなっていたのですね。
では、もう彼はこの星の一部になってしまったのですね。

しかしそれが気休めにしかならないことを、彼も気づいていたでしょうに。

この星はもう循環しません。
土しかないのですから。
わたしですか?
わたしはなにもしませんよ。
研究者として、この星が融解していく様子を観察させていただきます。
適当に、ですがね。
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本館「史間ブログ」では小説を連載しています。
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